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ナノセンシング工学

NANO-SENSING ENGINEERING

 ナノセンシング工学は,マイクロ・ナノレベルへと進展する機械工学の高精度化・高機能化に重要な役割を果たす研究分野です.材料・加工技術の進展に対応して,先端的な機械には,ナノスケールの超精密な機械設計も必須となってきました.そして,ナノスケールの世界では,マクロスケールの世界とは現象が異なり,機械の動作原理も異なってきます.例えば,自動車エンジンの潤滑システムにおいても,これまで以上の低燃費化を進めるには,機械要素間のナノスケールの摺動すきまの現象や特性を明らかにして機械設計する必要があります.また,ナノマシン技術が確立すれば,ミクロな医療用自律ロボットなど画期的な機械が実現します.しかし,微小さゆえミクロ世界の現象や特性の解明は困難です.このように,機械工学の今後の高精度化はセンシング技術にかかっており,ナノセンシングは次世代機械工学のブレイクスルーを生み出す研究分野といえます.このことはセンシング分野で多くのノーベル賞が生まれていることからも分かります(例えば,電子顕微鏡,走査型トンネル顕微鏡,MALDI,超解像顕微鏡など).
 福澤研究室では,独自の着想にもとづいたナノセンシングシステムやデバイスを設計・開発しています.例えば,ナノスケールの動的な流体現象をリアルタイムに可視化できるエリプソメトリ顕微鏡,原子間力顕微鏡に搭載しナノレベルの機械特性を計測可能なマイクロメカニカルプローブ,nN(ナノニュートン)レベルの超高感度に力学特性を測定できるメカニカルセンシングシステムがあり,独自開発したセンシング技術を用いてこれまで困難であったナノスケールの現象を解明し,新しい動作原理に基づく超精密機械・微小機械の実現を目指しています.

また,ナノセンシングにおいては得られる信号は微弱なため,情報処理技術と組み合わせることで計測限界の打破が期待できます.近年発展の著しい機械学習や人工知能(AI)といった情報科学技術との融合し,センシング情報の処理あるいは制御条件の最適化などによってセンシング技術の更なる革新を目指しており,情報学研究科(大岡研究室,張研究室)とも共同で研究を進めています.

名古屋大学福澤研センシング工学

(左から,エリプソメトリ顕微鏡での実験の様子,当研究室で開発されたマイクロメカニカルプローブ,クリーンルーム内での実験の様子)

ナノ計測に関する研究テーマ

・0.1nNの力感度を実現した超高感度なナノ力学センシング装置の開発 
・ナノスケールの表面解析とマニュピレーションを実現するマイクロメカニカルプローブ
・ナノスケールの動的な流体現象を可視化するエリプソメトリ顕微鏡

ナノ計測に関する主な研究成果

・Fiber wobbling method for dynamic viscoelastic measurement of liquid lubricant confined in molecularly narrow gaps, Tribology Letters, Vol. 30, 2008.6, pp. 177-189
・Design Principle of Micro-Mechanical Probe for Lateral-Deflection-Controlled Friction Force Microscopy, Microsystem Technologies, Vol. 22, 2016.5, pp. 1181-1188
・Design Principle of Micromechanical Probe with an Electrostatic Actuator for Friction Force Microscopy, Microsystems Technologies, Vol. 19, 2013.9, pp. 1567-1572
・Measurement of nanometer-thick lubricating films using ellipsometric microscopy, Tribology International, Vol. 122, 2018.6, pp. 8-14
・Extension of measurement range of lubrication gap shape using vertical-objective-type ellipsometric microscopy with two compensator angles, Tribology International, Vol. 142,

 2020.2, 105980, 8 pages

バイオセンシング工学

BIOSENSING ENGINEERING

 先端医療やバイオ研究では,DNAやタンパク質などのバイオ分子を一分子レベルで高精度かつ高速にセンシングする技術が必須となってきました.これまでバイオセンシングは化学・生物学的な分析が主でしたが,一分子レベルの分析は容易でなく,機械技術により分子を操作することで,一分子レベルの分析の実現することが期待されています.例えば,μ-TAS(Micro total analysis system)は,これまで,ビーカやフラスコなどから成る医療やバイオ研究に必要な複数の生化学的な分析機器群を,マイクロマシン技術を用いて数センチ角の微小チップ上に集積化したものです.チップ上にマイクロメートルからナノメートルサイズの流路,反応器,フィルタなどを形成し,DNA分子,タンパク分子などを高精度かつ高速に操作でき,小さなクリニックでの一分子レベル分析も可能となります.福澤研究室では,微小流路内に形成した独自のマイクロ・ナノ構造を用いたDNA一分子分析を実現するμ-TASの実現を目指しています.また,人工関節や医療デバイスの表面制御に利用できる生体適合性ポリマー薄膜に関する研究も行っています.
 一方,μ-TASなどのマイクロマシン技術を用いたバイオセンシングデバイス・システムの設計や人工関節などの表面制御には,ナノ空間のバイオ分子の挙動やナノ薄膜内のポリマー分子の性質の解明が必須です.しかし,ナノスケールの微小空間に閉じ込められた分子は,バルク状態(ビーカーのような大きな空間にいるときの状態)の分子と全く異なる性質を示します.これは分子と周囲の固体表面との分子間相互作用が原因ですが,機械特性にどのような影響があるかは十分に解明されていません.福澤研究室ではナノセンシング技術によってナノスケール空間のバイオ分子やポリマーの挙動・性質を解明し,これを基にした新しい機械設計論の確立を試みています.また,バイオセンシングにおいて得られる情報は微弱でかつばらつきが大きいため,上に述べたナノセンシングと同様に情報科学技術との融合により,計測限界の打破を目指しています.

名古屋大学福澤研センシング工学

(DNA解析チップ,マイクロ流路内に形成したDNA分離のための微細構造,ナノ流動工学による人工関節の高耐久性実現(イメージ))

バイオセンシングに関する研究テーマ

・高精度・高速なDNA分析を実現するマイクロ流体デバイスの開発
・微小流路内の分子制御と超解像イメージング法を組み合わせたDNA一分子センシング
・医療デバイス・人工関節などへの応用を目指した生体適合ポリマーによる表面流動特性の制御

バイオセンシングに関する代表的な研究成果

・Separation of Large DNA Molecules by Applying Pulsed Electric Field to Size Exclusion Chromatography-based Microchip, Japanese Journal of Applied Physics, 57, 027002, 2018.1,  8 pages
・Optimization of Applied Voltages for On-chip Concentration of DNA Using Nanoslit, Naoki Azuma, Japanese Journal of Applied Physics, 56, 127001, 2017. 11, 8 pages
・Anisotropic shear viscosity of photoaligned liquid crystal confined in sub-micron-to-nanometer-scale gap widths revealed with simultaneously measured molecular orientation,  Langmuir, 2015.9, Vol. 31, pp. 11360-11369

トライボロジー

TRIBOLOGY

 物理学者パウリは「固体は神の創造物,表面は悪魔の創造物」という言葉を残しました.これは表面は物理的・化学的に非常に複雑な状態で ”美しい”理論体系で統一的に記述することは難しいということを意味しています.表面の難しさは分子ひとつでその性質が大きく変化することにあります. すなわち分子レベルの理解が表面の理解に必須となります.ナノ計測技術の発展によって分子レベルの高感度な観測が可能となり,現在では表面の理解やその性状の精密な制御が可能となってきました.
 表面における力学現象としては摩擦と凝着があります.表面に水平方向の力学的相互作用が摩擦,垂直方向のそれが凝着とよばれます. これらを技術的に制御する分野がトライボロジーとよばれる工学分野です.トライボロジー技術はエジプトのピラミッド建造の様子を描いた壁画にも残されているほど歴史の古いものになります(トライボロジー研究の先駆者としてはレオナルドダヴィンチが知られています).トライボロジーの分野においてもナノ計測の発展によって,分子レベルで表面(摩擦力や凝着力)を制御ができる時代になってきました. そこで1990年代に生まれたのがナノトライボロジー(Nanotribology)とよばれる研究分野になります.すなわちナノトライボロジーは,超低摩擦な表面,エネルギーを効率的に伝える表面, 摩耗が発生しない表面などの従来にない画期的な機能性表面を分子レベルから創成する科学技術分野です.これにより機械システムの高エネルギー効率や高耐久性を実現することが可能となります.ナノトライボロジーが貢献できる機械システムは自動車エンジン,鉄道,人工関節,発電タービン,人工衛星,スマートフォンのメモリ,ハードディスクドライブなど多岐にわたります.福澤研究室では,独自開発のナノセンシング技術によって超低摩擦,高耐久性,画期的な機能を有する表面を分子レベルから創成することに挑戦しています. 研究成果は,自動車エンジンの燃費向上,スマートフォンメモリの超大容量化,次世代ハードディスクドライブの実現,人工関節の高寿命化など,産業界からも期待されています.

名古屋大学福澤研センシング工学

(左から,HDDのナノトライボロジー(イメージ),エンジンのナノトライボロジー(イメージ),ナノインプリントにより作製した微細表面構造)

トライボロジーに関する研究テーマ

・次世代情報記録装置のための先端トライボロジーシステムの開発
・低燃費を実現するためのエンジン潤滑技術
・ナノマシンやナノインプリントリソグラフィーなどナノ加工技術

トライボロジーに関する代表的な研究成果

・Enhanced Viscoelasticity of Polyalphaolefins Confined and Sheared in Submicron-to-nanometer-sized Gap Range and Its Dependence on Shear Rate and Temperature, Tribology  International, Vol. 120, 2018.4, pp. 210-217
・Real-time Observation of Molecularly Thin Lubricant Films on Head Sliders Using Rotating-Compensator-Based Ellipsometric Microscopy, IEEE Transactions on Magnetics, Vol. 53,  2017.11, pp. 1-4
・Measurement of Viscoelasticity of UV photoresist used for nanoimprint lithography under confinement in nanometer-sized gaps, Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 56,  06GL02, 2017.5, 6 pages
・Measurement of Thickness Distribution of Molecularly Thin Lubricant Films on Head Sliders Using Ellipsometric Microscopy, IEEE Transactions on Magnetics, Vol. 52, 2016. 7,  3300904, 4 pages

分子動力学シミュレーション

MOLECULAR DYNAMICS SIMULATION

 ナノセンシング技術やバイオセンシング技術で観測された現象を次世代の機械設計に生かすためには,そのメカニズムを正しく理解する必要があります.ただしナノスケールの現象は多くの領域が未開拓で,多くは,これまでの理論や法則は当てはまりません.そこで現象理解やそれを用いた機械設計には分子動力学シミュレーションが強力な手段となります.分子動力学シミュレーションとは現実の物理現象を,原子・分子ひとつのレベルからモデル化してコンピュータ上で再現することを目指す計算科学の手法のひとつです.シミュレーションで現実系を再現できれば,ナノスケールの複雑な現象を原子・分子ひとつひとつの動きから解明し,これを用いた超精密あるいは微小機械の機械設計を行うことができます.
 福澤研究室では,情報学研究科の張研究室との共同研究により,分子シミュレーションを用いたナノスケールの現象解明を試みています.ただ,分子シミュレーションでは,分子の性質を記述するには,多数のパラメータを設定する必要があります.これまでのシミュレーションでは,これらを人が経験に基づいて選んでおり,効率を大幅に下げる要因となっていました.我々は,機械学習など情報科学技術を応用し,最適な多数のパラメータを求めることを進めています.これにより分子ひとつひとつの動きに加えて,分子間の化学反応も考慮したシミュレーションで再現し,ナノ摺動すきまでせん断された高分子の破断や再結合といった,一般的なシミュレーションでは解析が困難な複雑なナノスケールの流体特性も解析することができるようになりました.
このように,福澤研では,独自のセンシング技術という実験的手法と分子動力学シミュレーションによる解析的な手法の両輪としてナノ現象を解明し,分子レベルからのものづくりを実現する新しい超精密機械工学の創成を目指しています.

名古屋大学福澤研センシング工学

(左から,シミュレーションによる固体表面の高分子の挙動解析,ナノスケールでせん断された高分子挙動解析)

分子動力学シミュレーションに関する研究テーマ

・スーパーコンピュータを用いた原子・分子レベルでの力学解析
・AIを応用した分子動力学シミュレーションによる分子挙動と化学反応の解析

分子動力学シミュレーションに関する代表的な研究成果

・Simultaneous in situ Measurements of Contact Behavior and Friction to Understand the Mechanism of Lubrication with Nanometer-thick Liquid Lubricant Films, Tribology  International, Vol. 127, 2018.11, pp. 138-146
・Is the Trend of Stribeck Curves Followed by Nano-Lubrication with Molecularly Thin Liquid Lubricant Films?, Tribology International, Vol. 119, 2018.3, pp. 82-87
・Molecular Dynamics Simulations of Diffusion of Submonolayer Polar Liquid Lubricant Films on Solid Surfaces, Microsystem Technologies, Vol. 22, 2016.6, pp. 1285-1290

主な研究設備

汎用装置

・原子間力顕微鏡
・走査型エリプソメータ
・Optical surface analyzer
・顕微フーリエ変換赤外分光装置
・接触角測定装置
・卓上型電子顕微鏡
・陽極接合装置
・炭酸ガスレーザー
・赤外線加熱炉
・摩擦試験機
・真空蒸着装置
・蛍光顕微鏡システム

独自開発装置

・ファイバーウォブリング法
・エリプソメトリ顕微鏡
・超微小荷重摩擦試験機

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